東京慈恵会医科大学循環器内科

研究班紹介

Team

カテーテル班

患者さまへ

東京慈恵会医科大学には、「病気を診ずして病人を診よ」という学祖高木兼寛の言葉があります。 これは、患者さま一人ひとりの背景や想いを理解し、その方に最適な医療を提供するという、私たちの理念を表す言葉です。

例えば、狭心症(心臓の血管が狭くなり、胸の痛みや圧迫感などの症状が出る病気)と診断されたとしても、ステント留置(狭くなった血管を広げるための金属製の筒を血管内に挿入する治療)ですべてが解決するわけではありません。検査や治療の内容・方法、そして治療の選択は、患者さま一人ひとりで異なり、最適な答えは必ずしも一つではありません。

私たちは、患者さまの背景を十分に理解し、何が問題で何が必要なのか、どのような治療を行うべきなのかをあらゆる面から検討いたします。そして、より安全で安心な、患者さま一人ひとりに寄り添った適切かつ総合的な医療を提供いたします。

すべては患者さまのために、患者さまに寄り添う優しさと、しっかりと説明し対話する姿勢を大切にし、患者さまのご要望やご期待に真摯にお応えする、それが慈恵医大のカテーテル治療です。

循環器内科を志す若き先生方へ

心血管インターベンション治療のスペシャリストを目指すにあたり、確かな知識とエビデンスに基づいて、多くの経験を積み、技術を向上させ、より高みを目指せるような教育環境を探しているのではないでしょうか。それは、医師として成長を目指す上で、当然の願いです。もちろん、どのような環境に身を置いても、未来がどうなるかは誰にも分かりません。予期せぬ出来事や出会い、そして自身の選択によって、人生は大きく変わっていく可能性があります。その中で、自分を導いてくれる指導者との出会い、そして共に成長を目指す仲間の存在は、かけがえのないものです。そして、学ぶ場所を選ぶ際には、「自分にとって何があるのか」という視点も大切です。

東京慈恵会医科大学には、「病気を診ずして病人を診よ」という精神が根底にあります。この精神は、患者さん一人ひとりの背景や想いを理解し、その方に最適な医療を提供するという、私たちのインターベンション治療にも通じるものです。

ハイボリューム、アグレッシブ、コンサバ、最新、遅れている…病院の評価は様々でしょう。しかし、大切なのは、そこで自分がどのように成長できるかです。私自身、卒後35年を迎えましたが、ずっと慈恵医大で研鑽を積んできました。今でも若手医師と共に学び、教え、時に反省を繰り返す日々です。様々な出会いの中で多くのことを経験し、確固たる知識と信念を身につけてきました。そして、臆することなく、慈恵医大のカテーテル治療を担っています。

慈恵医大循環器内科には、医師として成長できる環境があります。時には楽しく、時には厳しく、互いに刺激し合いながら、共に成長を目指せる仲間がいます。

是非、慈恵医大で、私たちと一緒に、未来の医療を切り拓いていきましょう。

スタッフ一同、心よりお待ちしております。

東京慈恵会医科大学 循環器内科 教授 小川崇之
(日本心血管インターベンション治療学会 理事)

*2024年6月に本院のカテーテル室をリニューアルしました。透視装置も最新機器を導入しました。

【カテーテル検査】

カテーテル班では、主に虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞など)や心不全などの精査のため、心臓カテーテル検査を行っています。心臓カテーテル検査は侵襲的な検査であり、各症例で慎重に適応を判断して、患者さんやご家族に十分な説明や同意の下、最大限安全に配慮して施行しています。実際に心臓カテーテル検査で得られる情報は多く、様々な循環器疾患の治療方針の決定に重要な役割を果たします。

主な検査内容
  • • 冠動脈造影(CAG)
  • • 圧ワイヤーによる機能的虚血の評価(FFR)
  • • 冠攣縮性狭心症の評価
  • • 冠微小循環障害の評価
  • • 右心カテーテル検査
  • • 心筋生検など

【カテーテル治療】

検査の結果、治療の適応があると判断された症例に対し治療を行います。インターベンションでは、虚血性心疾患に対するPCIの他、インターベンション医・エコー医・心臓外科等から構成されるハートチームによるTAVI等の構造的心疾患に対するインターベンションも行っております。
以前と比べると様々なエビデンスの蓄積により、虚血性心疾患へのPCIの適応は限定されてきており、PCI全体の件数は減少しています。しかし、適応のある症例へのPCI、あるいは急性冠症候群に対する緊急PCIの必要性は変わることなく、むしろ高齢化社会において、ますます需要が増えてきています。本院および当科関連施設では、24時間365日緊急症例の受け入れも積極的に行っており、循環器救急疾患への対応に当たっております。

主な治療内容
  • • 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)
  • • 循環補助デバイス・・・IABP・Impella・PCPS
  • • 経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)
  • • 経皮的僧帽弁クリップ術(MitraClip)
  • • 経皮的左心耳閉鎖術デバイス(Watchman)
  • • 経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)
  • • 心房細動アブレーション後の肺静脈狭窄に対する血管形成術
  • • 肺動脈バルーン形成術(BPA) など

① 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)

虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)に対するカテーテル治療の歴史は1980年代にさかのぼります。

カテーテル治療の黎明期である1980年代はバルーンによる病変拡張(POBA)が主な手段であり、急性冠閉塞(治療後まもなくの血管閉塞)のリスクが高く、“再狭窄”(拡張した部位が数ヵ月後に再び狭くなること)も高率であったことから、その適応も決して広くはありませんでした。

1990年代前半には、これらの問題点を克服すべく冠動脈ステント(BMS:Bare Metal Stent)が登場し、PCIの初期成功率を向上させるとともに再狭窄率を低減しました。また、手技の簡便さもあり、ステント留置後の血栓症発症予防のための2剤抗血小板療法(DAPT)の確立とともに、冠動脈治療の中心となりました。この頃より、経皮的冠血管形成術(PTCA)から冠動脈インターベンション(PCI)とその名称も変更されました。

しかし、再治療率は依然として20%程度の症例で認められ、特に新生内膜の過剰増殖によるステント内再狭窄(ステント内に新たな狭窄が生じること)は新たな問題となりました。

そこで2000年代前半に、ステント内再狭窄を減らすべく、細胞増殖を抑制するための免疫抑制剤がステントのポリマーから溶出する薬剤溶出性ステント(DES:Drug Eluting Stent)が登場しました。DESにより、PCIの大きな欠点であった“再狭窄”が激減し、それまで冠動脈バイパス手術しか治療方法がなかった複雑病変をはじめとした症例を含む、さらなる適応拡大につながりました。現在、DESもさらに進化を遂げ、第2世代から第3世代のDESが使用されており、第1世代DESで指摘された長期的な有効性・安全性についても検証が進み、良好な成績が報告されております。ステントのみならず、小血管病変や高度石灰化病変など、ステントの長期成績が不良とされる病変に対しては、状況に応じて必ずしもステント留置をせずに、薬剤コーティッドバルーン(DCB)による拡張で終了することもあります。

近年では、ステントの改良の他、石灰化病変等に対する様々なデバイス(ロータブレーター、ダイヤモンドバック、IVLカテーテルなど)や血管内イメージングデバイス(IVUS、OCTなど)の開発・改良も進んでいます。
高齢化を極める社会の中で増え続ける石灰化病変等をはじめとする複雑病変への治療のニーズも増加してきており、これら様々なデバイスを駆使して、患者さん一人一人にとって最善の治療を提供できるよう、日夜治療に励んでおります。

また、以前と比べると様々なエビデンスの蓄積により、虚血性心疾患へのPCIの適応は限定されてきております。PCIの適応を決定するためには、心筋虚血の証明が重要であり、実際に様々な検査方法があります。外来で行う心筋シンチグラフィー、運動負荷検査のほか、カテーテル検査時に行う冠血流予備量比(圧ワイヤーによる狭窄度の評価)などの検査により、PCIの適応を慎重に評価(虚血評価)します。一方で適応のある症例へのPCI、あるいは急性冠症候群に対する緊急PCIの必要性は変わることなく、むしろ高齢化社会において虚血性心疾患の患者さんは増加しており、その需要も高まっています。

さらに、昨今ではデバイスの進化に加え、薬物治療の進歩もめざましく、虚血性心疾患の患者さんにとっても、インターベンションのみでなく、薬物治療の果たす役割も非常に重要となります。我々インターベンションに携わる者の責務として、インターベンションのみに固執することなく、患者さん一人一人の背景や状況も十分に考慮し、必要かつ最適な治療を提供できるよう心掛けています。

●当院で使用可能な主なデバイス
ロータブレーター

ロータブレーターは高度石灰化病変のPCIで使用されるデバイスです。先端にダイヤモンドのチップのついたドリルを高速回転させて、高度石灰化病変を少しずつ切削しながら冠動脈内を進めていき、その後バルーンによる拡張やステント留置を行います。

(ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社より写真提供)
ダイヤモンドバック

ダイヤモンドバックは、高度石灰化病変に対して使用されるデバイスで、カテーテルを取り巻くようについたダイヤモンドのチップが衛星軌道を描くようにぶれながら回転し、前後に進めることで石灰化病変を少しずつ削りながら内腔を拡大させていくためのデバイスです。

(アボットメディカルジャパン合同会社より写真提供)
IVLカテーテル

IVLカテーテルは、高度石灰化病変に対して使用されるデバイスで、衝撃波を発生するエミッターと呼ばれる装置がついたバルーンカテーテルです。病変部でバルーンを拡張させ(下図A)、衝撃波を発生させることで石灰化プラーク(粥腫)を破砕して(B・C)、病変部を拡張させる(D)デバイスです。

© 2023 Shockwave Medical, Inc. All Rights Reserved
(Shockwave Medical Japan株式会社より写真提供)
DCA(方向性冠動脈粥腫切除術)

DCAは、先端にカッターがついており、そのカッターを病変部で前後に動かすことで冠動脈内のプラークを削って、削りだしたプラークをその場でデバイス内に格納して、そのまま体外に排出することで、冠動脈の内腔を拡大させるためのデバイスです。冠動脈の入口部や分岐部の病変で、そのままではステント留置が難しい場合などで使用することがあります。

(ニプロ株式会社より写真提供)
Impella(インペラ)カテーテル

Impella(インペラ)は、大腿動脈などの血管から左心室内にカテーテルを挿入し、制御装置により、心臓のポンプ機能をサポートする、補助循環デバイスです。急性心筋梗塞や劇症型心筋炎などの急性期で血行動態が不安定な場合に血行動態を安定化させる目的で使用しています。当院では、Impella CPと、よりサポート力の高いImpella 5.5を導入しており、疾患や病態に応じて使用しています。

(日本アビオメッド株式会社より写真提供)
●当院の診療実績

*CAG=冠動脈造影(心臓カテーテル検査)、PCI=経皮的冠動脈インターベンション

*DES=薬剤溶出性ステント、BMS=金属ステント、DCB=薬剤コーティッドバルーン

冠動脈造影時に、虚血評価のためにpressure wireによる検査を行っています。
*invasive FFR=侵襲的検査による冠血流予備量比、PW=圧ワイヤー(pressure wire)

冠動脈造影の画像を解析することで虚血評価を行う方法(FFR angio)を導入しており、最近では施行件数も増加しています。
画像の条件などが適合すれば、pressure wireによる侵襲を加えることなく虚血評価が可能です。

高度石灰化病変に対しては、そのままステントを留置するとステントの拡張不良を来し、将来的な再狭窄につながり、長期成績に影響します。病変形態に応じて、適切なデバイスを使用することで、安全かつ長期的な成績も担保するように治療を行っています。 *RA=ロータブレーター、OA=ダイヤモンドバック、IVL=Intravascular Lithotripsy(衝撃波による石灰化破砕術)

② 経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)

重症大動脈弁狭窄症に対する、経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)を行っております。詳細は、構造的心疾患に対するインターベンションを参照ください。

③ 僧帽弁クリップ術(MitraClip)

重症僧帽弁閉鎖不全症に対する、僧帽弁クリップ術(MitraClip)を行っております。詳細は、構造的心疾患に対するインターベンションを参照ください。

④ 経皮的左心耳閉鎖術デバイス(Watchman)

出血リスクの高い心房細動の患者さんに対し、Watchmanによる左心耳閉鎖術を行っています。詳細は、構造的心疾患に対するインターベンションを参照ください。

⑤ 経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)

閉塞性肥大型心筋症(HOCM)は、心筋肥大を呈する肥大型心筋症という疾患のなかで、特に左室中隔基部の肥大により、左室から大動脈への血流の出口である左室流出路が狭窄する疾患です。狭窄が重度となると、息切れや失神などの自覚症状を生じます。症状を改善させるため、薬物治療が行われますが、薬物治療下でも症状が残存する症例に対し、PTSMAを施行しています。
実際の治療では、左室中隔の肥大心筋を栄養する血管(中隔枝)に対し、エタノールを選択的に投与して血管を閉塞させ、肥大心筋を焼灼します。焼灼された肥大心筋は菲薄化していき、流出路の狭窄が解除され、症状が改善します。
HOCMの患者さんでは、症状、およびエコー検査やCT・MRIなどの画像検査を中心とした検査を行い、治療の適応を慎重に見極め、PTSMAを施行します。PTSMAの術中は、エコー検査を併用し、合併症に注意しつつ、安全に治療を行っています。

⑥ 心房細動アブレーション後の肺静脈狭窄に対する血管形成術

心房細動に対するアブレーション治療後の経過観察中に、肺静脈狭窄を呈する場合があります。重度の肺静脈狭窄では、呼吸困難、咳、胸痛、喀血などの症状を生じることがあります。有症状の症例で、造影CTなどによる画像検査により重度の肺静脈狭窄が疑われた場合には、カテーテル治療による血管形成術を行っています。PCI同様、肺静脈にバルーン拡張やステント留置を行い、肺静脈狭窄の解除を行います。

1) Ogawa T, et al. Pulmonary Vein Angioplasty for Pulmonary Vein Stenosis After Ablation Therapy for Atrial Fibrillation – A Report of 7 Cases. Circ J. 2022 Jul 25;86(8):1229-1236.
2) Tokuda M, Ogawa T, et al. Comprehensive review of pulmonary vein stenosis post-atrial fibrillation ablation: diagnosis, management, and prognosis. Cardiovasc Interv Ther. 2024 Oct;39(4):412-420.

⑦ 肺動脈バルーン形成術(BPA)

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は、肺動脈に血栓が形成されて、慢性化した際に、肺血管の循環が悪化して、肺動脈の血圧が上昇する(肺高血圧)疾患です。CTEPH症例に対して、適応を判断し、BPAを行っています。CTEPHは国の定める指定難病であり患者数も少なく、BPA実施施設は全国でも多くありませんが、当科の関連施設である埼玉県立循環器・呼吸器病センター(埼玉県熊谷市)は全国有数のBPA実施施設であり、同施設の指導医を当院へ招聘して、当院でも治療を行っています。

*埼玉県立循環器・呼吸器病センターホームページ 経カテーテル的肺動脈バルーン形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)

循環器内科カテーテル班の取り組み

当科では、本院の他、分院(葛飾医療センター、第三病院、柏病院)、関連施設(埼玉県立循環器・呼吸器病センター、富士市立中央病院、厚木市立病院、西埼玉中央病院)にも医師を派遣しており、全施設でPCIをはじめとする様々なカテーテルインターベンション治療を実施しており、多くの地域医療にも貢献しています。いずれの派遣施設でも、日本心血管インターベンション学会(CVIT)専門医による指導体制の下、研鑽を積むことができ、若手教育にも力を入れています。研修医やレジデントの先生方向けにWETラボでのカテーテル体験のイベントや、デバイスのハンズオンなども随時行っています。
また、日常臨床の他に、CVIT等の学会への参加・発表、論文発表等の学術活動も行っております。特に、2022年10月には、第60回CVIT関東甲信越地方会、およびTOKYO LIVE DEMONSTRATIONを当院で主催し、当院カテーテル室からもライブ中継を行いました。

*TOKYO LIVE DEMONSTRATION 2022 ライブ中継の様子