構造的心疾患 (SHD) グループ
構造的心疾患 (SHD) とは「Structural Heart Disease」の略語であり、心臓の構造的異常により病的状態をきたす疾患群のことをいいます。高齢、合併併存疾患等により、今まで心臓血管外科手術リスクが高く、手術の恩恵を受けることができない患者さんに対して、近年カテーテルを用いた低侵襲治療が行われるようになりました。当院では、積極的に下記の病態に対してSHD治療 (インターベンション) を行っています。2013年12月から循環器内科 (インターベンション医、エコー医)、心臓外科、血管外科、麻酔科、臨床工学技師、放射線技師、看護師等で慈恵医大ハートチームを結成し、週1回ハートチームカンファレンスを行い、「病気を診ずして病人を診よ」の建学精神に則して、一人ひとりの患者さんに適した最善の治療を提供しています。

①TAVI (大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁置換術)
大動脈弁とは心臓の左心室と大動脈を隔てている弁であり、この大動脈弁が加齢等の原因で硬くなり、開放が制限されることで、心臓から全身に十分な血液を送り出せない病気を大動脈弁狭窄症といいます。大動脈弁狭窄症が進行すると、息切れ、胸痛、失神などの症状が出現し、突然死に至ることもあります。
TAVIとは、「Transcatheter Aortic Valve Inplantation」の略であり、重症の大動脈弁狭窄症に対する低侵襲カテーテル治療です。開胸せずに、カテーテルを用いて、折りたたまれた人工弁を患者さんの心臓に留置する治療法です。開胸手術と比べ、手術侵襲が少ないことから、少ない身体的負担で、患者さんの術後のQOLを維持できる可能性が高い治療と考えられています。当院においては、本邦導入初期の2015年8月から開始しています。






② MitraClip® (僧帽弁閉鎖不全症に対する経カテーテル的僧帽弁クリップ術)
僧帽弁とは、心臓の左心室と左心房を隔てている弁であり、様々な原因により僧帽弁の閉じが悪くなり、左心室が収縮した際に血液が左心室から左心房へ逆流してしまう病気です。重症の僧帽弁閉鎖不全症になると、息切れや浮腫などの心不全症状が出現し、生命に関わることがあります。重症の僧帽弁閉鎖不全症に対しては外科的手術が第一選択なりますが、高齢、他の併存疾患や、心臓の動きが悪い方は、外科的手術を受けることができない場合があり、これらの患者さんへの治療選択肢として、クリップを用いた経カテーテル的僧帽弁クリップ術が選択されるようになりました。僧帽弁は2つの弁葉からなる弁であり、カテーテルを用いて、両弁尖をクリップでつまんで、僧帽弁逆流を軽減することを目的とした低侵襲の治療法です。当院においては、2022年8月から開始しています。


③ LAAC (カテーテルによる左心耳閉鎖術)
心房細動という不整脈は心房が不規則に震える状態で、心房内に血栓ができやすい状態となり、脳梗塞発症リスクが高くなります。そのため、他の脳梗塞のリスク (高齢、高血圧、糖尿病、脳梗塞既往など)を持っている方は、血栓を予防するため、抗凝固薬を飲み続ける必要があります。しかし、抗凝固薬の重大な副作用として出血リスクの上昇があります。高齢、高血圧、肝腎機能障害、脳卒中の既往などがある患者さんは特に出血リスクが高くなるといわれています。このような抗凝固薬内服が必要であるが、出血リスクの高い患者さんにおいて、カテーテルで左心耳 (左心房内の血栓ができやすい袋状の部屋) を閉鎖することで、脳梗塞リスクを低減し、抗凝固薬が中止できる可能性があり、出血リスクを低減することが可能と考えられています。 当院においては、2020年11月から開始しています。


心エコーグループ
超音波機器の技術進歩、診断精度の向上により、近年、詳細な疾患の診断、重症度評価が可能となっており、心臓超音波検査は循環器領域疾患において欠かせない検査となっています。また、構造的心疾患に対するカテーテル治療や心臓外科手術において、治療適応の判断や術前評価、術中のモニタリング、術後評価と心臓超音波検査の果たす役割は年々重要となってきています。
当院の心エコーグループでは、インターベンション医、心臓外科医とも密に連携をとりながら、臨床においては司令塔の立場として、多くの正確な情報を提供できるよう心がけています。また、3D心エコー解析を積極的に行い、2D評価のみでは得られない詳細な評価を得ることで、患者さん一人ひとりに合った治療を目指しています。
週1回の心臓外科カンファレンス、ハートチームカンファレンスに参加し、積極的に情報共有を行っています。また、月1回の循環器内科医、超音波検査技師、心臓外科医とのエコーラウンドでは、外科手術症例のエコー術前評価、術後評価、術中所見の共有を行い、常に診断技術向上を目指しています。
国内、国外での学会発表や海外留学も積極的に行い、最新知見のアップデートや臨床研究にも取り組んでいます。

① 経胸壁心エコー
非侵襲的に心臓の形態、収縮および拡張能、弁膜症の成因や重症度、循環動態などの評価が可能であり、循環器診療のみならず、多岐にわたる疾患を診療している当大学病院では欠かすことのできない検査となっています。経験豊富な超音波技師、医師により年間7000例以上 (病棟、救急外来での検査を除く) の経胸壁心エコーを施行しています。最先端の超音波機械、解析技術を生かし、心疾患の正確な診断、詳細な重症度評価を行い、臨床とのつながりを重視した、的確な情報提供を常に意識し、取り組んでおります。
スペックルトラッキング法

② 経食道心エコー
年間約200件 (手術室での検査を除く) 程度の経食道心エコーを施行しており、安全かつ正確な検査に基づいた、的確な診断、治療方針決定に貢献できるよう努めております。当院では海外留学にて最先端の3D心エコー解析を学んだスタッフが複数在籍しており、各検査において3D心エコーを用いた詳細な解析を行い、心臓外科手術、SHDインターベンションの術前評価、術中モニタリング、術後評価に生かしています。また、豊富な臨床データを活用し、国内、国外での学会発表や臨床研究にも取り組んでいます。
3Dエコー, 僧帽弁逸脱症


③ 負荷心エコー
安静時の状態のみでは心疾患の診断や心機能障害、血行動態の評価が不十分となることがあります。負荷心エコーでは、運動や薬物により心臓に負荷を行うことで心形態・血行動態の変化を評価することが可能となります。当院では運動負荷心エコー、薬物負荷心エコーを積極的に行い、診療に役立てています。