基礎研究班


循環器内科基礎研究班の特徴
- 研究環境
- 大学の2フロア全体を活用して各臨床講座の研究室が一続きに配置された、海外のLabのような「臨床Lab」が2017年にオープンしました。講座間のつながりがこれまで以上に深まることで、より発展的な研究が展開されています。
- 定期的な活動
- 大学の内外を問わず参加できるJournal Club(毎月第2水曜日)、及びResearch Conference(毎月第4水曜日)を開催しており、実験データに関する考察を多方面から活発に議論しています。
- 学会発表
- 日本循環器学会(総会ならびにBCVR)、アメリカ心臓協会(AHA総会ならびにBCVS)、ヨーロッパ心臓病学会(ESC)など国内外の学会へ積極的に発表を行い、各種の受賞歴があります。
- 海外留学
ハーバード大学(ボストン)、スタンフォード大学(サンフランシスコ)、ワシントン大学(シアトル)、トゥールーズ大学(フランス)などへの留学実績があり、欧米諸国を主体とした海外の研究室と連携しつつ、幅広い視点で研究を進めています。
ワシントン大学医学研究前にて

研究内容紹介
心不全は「エネルギー代謝病」
心臓は絶えず収縮・拡張を繰り返しており、膨大なエネルギーを必要とする臓器です。正常の心筋では、エネルギーの95%がミトコンドリアによる好気的代謝から供給され、主に脂肪酸がエネルギー源として利用されています。一方で、心臓は他に糖、ケトン体、アミノ酸など様々な基質をエネルギー源として柔軟に利用する能力を備えています。重症心疾患ではエネルギー需要が高まるため、心筋は基質の利用率を調整しながら、エネルギー産生を維持しようとします。例えば、左室収縮能の低下した心不全(HFrEF)では、糖の利用率が増加する傾向があります。ところが、重症の不全心はインスリン抵抗性となり、頼りにしていた糖の利用障害が起こるため、結果的に“エネルギー飢餓状態”に陥っていると考えられます。また最近、左室収縮能が保たれた心不全(HFpEF)においても、脂肪酸の利用障害によって、エネルギー飢餓が生じていることが明らかになってきました。したがって、心筋におけるエネルギー基質の利用効率を最適化することは、さまざまな心疾患の治療において重要な鍵となり得ます。このように私たちは、<心不全はエネルギー代謝病である>という概念に基づき、臨床的視点から以下に示す研究プロジェクトを進めています。


① ナトリウム利尿ペプチド(ANP, BNP)の心臓脂肪関連や保温効果,心筋ミトコンドリアへの影響
② 尿酸および尿酸トランスポーター(特にURAT1)のインスリン抵抗性,心筋代謝への影響
③ 甲状腺ホルモン,およびその代謝産物(T1AM)の心血管内分泌代謝に与える影響
④ 低酸素誘導性因子(HIF)の,BNPをはじめとする心血管内分泌代謝に与える影響
各種細胞を用いたin vitro実験、Langendorff摘出心灌流装置を用いたex vivo実験、肥満マウスを用いたin vivo実験を稼働させ、高感度プレートリーダー他、各種分子生物学的手法を駆使すると同時に、心臓内分泌代謝研究に必要な様々なmethodologyを新たに確立しています。また、病理学教室や細胞生理学教室など複数の基礎医学講座のサポートのもと、幅広い視点から各プロジェクトにアプローチしています。加えて、心臓カテーテル検査を含めた各種臨床データベースを神経体液性因子制御機構の観点から解析し、bedsideとbenchの垣根を越えた当科独自のユニークな研究も行っています。これらを通じ、内分泌臓器としての心臓を包括的に捉えることで、重症心疾患の病態生理の真髄に迫る研究を展開しています。