循環器疾患検査治療

不整脈疾患に対するアプローチ

心臓は全身に血液を送り出すポンプですが、それを働かせるための電気系統の配線が心臓全体に張り巡らされています。正常な脈は、右心房の上方にある 洞結節から発生する電気信号が心臓の壁の中を走行する刺激伝導系と呼ばれる電線を介して心臓の上から下へと伝導していくことで生成されます。この電気信号の発生、伝導などに異常が生じた場合に“不整脈”が発生します。そして、その中には脈が速くなってしまう頻脈性不整脈と遅くなってしまう徐脈性不整脈があります。発生している不整脈を正確に診断し、必要に応じて色々な治療を行います。

治療手段としては、薬物治療(抗不整脈薬)およびカテーテルアブレーション治療(心筋焼灼術)、ペースメーカー治療、植え込み型除細動器(ICD)、などの非薬物治療があります。当科では不整脈治療の専門家を揃え、全ての不整脈に対して責任を持って対応しています。特にカテーテルアブレーションによる不整脈の根治術には力を注いでいます。

治療対象となる不整脈疾患

発作性上室性頻拍(房室結節回帰性頻拍、房室回帰性頻拍)
WPW症候群
心房粗動
心房細動
心房頻拍
心室性期外収縮
心室頻拍
心室細動
QT延長症候群
ブルガダ症候群
房室ブロック
洞不全症候群  など

カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)

脈が速くなる頻脈性不整脈に対する根治的治療法です。大腿の付け根の血管から長くて細いカテーテルを挿入し、心臓まで到達します。カテーテル先端から高周波電流を流すことで心臓の筋肉を内側から焼灼することができます。頻拍の原因となっている異常興奮や興奮の旋回路を焼灼することで不整脈を根治することが目的です。

対象となる不整脈の代表は、WPW症候群、房室結節回帰性頻拍、心房粗動など、原因部位がかなり限局しているもので、その根治率は95%以上に達しています。その他、心室性頻拍や一部の心室細動、心房頻拍も治療対象です。

当科では心房細動に対するカテーテルアブレーション治療には特に力を注いでおり、対外的にも高い評価を頂いています。2000年にボルドー大学(フランス)において世界で初めて心房細動に対するカテーテル肺静脈隔離術が開始された時からその開発に参加し、2001年より 他施設に先駆けて日本で治療を開始。これまでに約400例に治療を行い、発作性心房細動では9割以上、慢性心房細動でも7~8割で治療に成功しています。 特に肺静脈をその周囲の組織(前庭部)とともに電気的に隔離する方法(肺静脈前庭部隔離術)を独自の方法で開発し、安全性と治療効果の向上に成功しています。
近年、不整脈時の心臓内電気興奮の流れをコンピューター上に3Dアニメーション的に表示する特殊機器が注目を集めています。当科では2003年よりカルトシステム(electroanatomical mapping)を導入し、複雑な不整脈の解析に役立てています。 以下、代表的な不整脈に対するカテーテルアブレーション治療について概説します。

房室結節回帰性頻拍(術時間:約2時間)

房室結節部の複数伝導路(主として2重伝導路)を基礎に発生する頻拍です。2重伝導路は伝導速度の違いから遅伝導路(slow-pathway)、 速伝導路(fast-pathway)に大別され、両者を介して頻拍回路が形成されます。通常、遅伝導路を標的として選択的なカテーテルアブレーション治療が可能です。右房後中隔部の冠静脈洞入口部上縁付近において遅伝導路電位(slow-pathway potential)が記録され、同部位への高周波通電を行うことで成功率95%以上、房室ブロック発生率0.5%以下の有効性安全性をもって治療が可能です。(図1)

WPW症候群(術時間:約2時間)

正常房室伝導路以外に副伝導路を房室弁輪に有する疾患であり、この両者の間で房室回帰性頻拍を生じると発作性上室性頻拍(PSVT)となります。また心房細動の合併が多く、副伝導路の有効不応期が短縮しているハイリスク群では致死的不整脈ともなりうることが知られています。治療適応は有症状例および薬物抵抗例、ハイリスク群(副伝導路有効不応期<250ms)が挙げられていますが、カテーテルアブレーション治療の有効性安全性が極めて高いことから社会的適応(パイロットなどの職業、スポーツ選手)や本人の希望による治療も現在では一般的となっています。
副伝導路は僧帽弁および三尖弁の弁輪部に存在するため、まず右心側か左心側か(主に心電図から)を見極め、左(僧帽弁)であれば冠静脈洞に多電極カテーテルを留置してマッピングを行います。房室間または室房間の連続電位が記録できる部位を治療用カテーテル(先端4mm, 可変カーブ型)によって特定し、電極先端と背部に貼付した対極板の間に高周波電流を通電し、焼灼治療を行います。(図2)

心房粗動(術時間:約2時間)

通常型心房粗動は三尖弁輪を興奮が旋回することにより発生する典型的なリエントリー性頻拍です。薬物治療に比較的抵抗性で治療の難しい頻拍とされてきましたが、カテーテルアブレーションにより容易に治療ができるようになりました。治療のターゲットは下大静脈・三尖弁輪間の解剖学的峡部(IVC-TA isthmus)であり、頻拍回路に対して横断線状焼灼を行います。治療目標はこの部位での両方向性完全伝導ブロックの完成であり、複数の方法を用いて確実な伝導ブロックの確認を心がけています。
非通常型心房粗動に対しては上記のカルトシステムが役立ちます。心臓内電気興奮の流れをコンピューター画面上に色の変化として表示し、回路を同定して焼灼治療します。(図3)

心房細動

■心房細動とはどのような疾患か?
心房細動とは不整脈の一種です。脈の速くなる不整脈を頻脈性不整脈と呼びますが、その中で最も頻度が高いものです。特別な原因がないことが大部分で、年齢 が上がるにつれて増えてくるため、加齢現象の一つとも言われています。自覚症状として動悸や息切れなどを訴える方もいますが、何も感じないことも少なくありません。

心臓は心房と心室に上下で分かれており、通常は両者が1対1の回数で順番に収縮しています。心房細動の時には心房が一分間に600~800回くらいのとんでもないスピードで不規則に興奮します。あまりに速いために心房全体が細かく震えて痙攣状態となります。この心房が細かく動いている病態を心房細動と呼ぶわけです。

心房細動の治療は非常に難しく、根治することは不可能と最近まで考えられていました。脈が乱れても命に関わるわけではないので、これまでは放っておいて脈拍数のコントロールをしていれば大丈夫だという考えが主流でした。しかし、きちんと拍動していない心房の中に血の固まりを作りやすく、脳梗塞から半身不随や命を落とした有名人が出たことからも最近は特に注目を集めています。

これからの高齢化社会を考えれば、心房細動を根治させることは、脳梗塞の発症や寝たきり状態を未然に防ぐことに直結するわけであり、心房細動を根治的に治す方法の開発は社会問題とも言えるわけです。

■心房細動はどうやって治るようになってきたのか?
心房細動は心房全体をその発生の場とする複雑な不整脈であり、根治のためには外科的なメイズ手術を代表とする心房全体に対する治療が必要でありカテーテル治療による根治は困難と考えられてきました。というのは、カテーテルアブレーションは先端4~8mm程度の電極カテーテル先端から電流を流すことで心筋を焼灼する方法であり、一回の通電による焼灼可能範囲が直径5ミリ程度と小さく、回路の限られた不整脈には奏功するものの広い範囲の焼灼にはあまり適していないからです。

ここで大きな突破口となったのが、フランスのHaissaguerreらの提唱した肺静脈理論です。これは心房の中でも、左心房後壁の肺静脈という血管が開口している部分に特に悪い細胞が集中していることの発見であり、治療としてまずは不整脈発生源をカテーテル焼灼することが開始されました。
しかしこの方法では、再発率が高い上に肺静脈内部の焼灼による血管狭窄の危険性などの問題を抱えていました。引き続いて肺静脈入口部での焼灼で肺静脈 を左心房から電気的に隔離する方法(肺静脈隔離術、図4)を開発しました。先端がリング状になっている特殊なカテーテル(ラッソーカテーテル)を用いて肺静脈と左心房との間の電気的連結部位を特定し、カテーテル焼灼によって効率的に両者の交通を遮断する方法です。カテーテル焼灼によって効率的に両者の交通を遮断する方法です。
私のフランス滞在中に本法が開始され、その開発の段階から関わってきました。この方法は瞬く間に世界中の不整脈学者に受け入れられ、一気に心房細動の根治術が広まりました。

■最近の研究の紹介
肺静脈を入口部から電気的に隔離した後にも心房細動が再発する症例が少なからず存在し、その原因部位は肺静脈入口部のさらに周囲に広がる組織であることが判明しました。そこで私はフランスからの帰国後、独自の方法として肺静脈前庭部隔離術を開発しました。通常のものよりも大きなサイズのラッソーカテーテルを使用し、特殊な方法で肺静脈前庭部に密着固定し、肺静脈とその周囲の細胞(肺静脈前庭部)をひとまとめに左心房から隔離する方法です(図5、6)。他にも拡大肺静脈隔離術と呼ばれる方法も開発されています。このような技術の進歩とともに治療適応も拡大され、現在では発作性心房細動だけでなく慢性心房細動でも治療が可能になってきています。治療成績は発作性心房細動では約9割、慢性心房細動では7~8割です(治療成績は進行程度によって異なります)。
治療のリスクとして、心タンポナーデ、肺静脈狭窄、脳梗塞、食道傷害などが起こりうると報告されていますが、全て1%以下の発生率です。

■この領域の今後の展望
心房細動の患者様は本当にたくさんいます。その割に治療可能な施設はいまだに限られているのが現状です。現在はまだ施設や術者の間の技術格差が大きく、どこの病院でも治療できるというレベルには達していません。今後はより治療方法が簡素化されて、多くの病院で治療が可能となり、患者様の数に対応できるようになってこそ、心房細動の根治が可能となったと言えるのだと思います。

以上のように不治の病と言われた心房細動もかなり治るようになってきました。しかし心房細動全員に手術を行うわけではありませんし、その必要もありませ ん。大切なのは、お一人お一人の症状や進行状況、そしてご希望に合わせてオーダーメイドの治療方針を立てることです。そのためにはご自分の今の状況を理解して頂いて、私達と一緒に治療方針を考えていく必要があります。ご自分の主治医に何でも質問してみましょう。

■当科におけるカテーテルアブレーション治療数推移(図7)
約10年前から積極的な治療を開始し、この数年は年間150-160例の治療を行っています。当科のアブレーションの特徴は、一般的には非常に難しいといわれている心房細動の治療が全体の70%程度を占めていることです。

徐脈性不整脈に対する心臓ペースメーカー移植術

1. 徐脈性不整脈とは
通常、心臓は洞結節から発生する刺激に同調し規則正しく拍動しており、この速度は安静の状態で60~90/分が正常です。運動時や興奮時などに一時的に速度が上昇しますが、安静にすると自然に元の状態へ戻ります。
調律が乱れ著しく脈が遅くなる状態を「徐脈性不整脈」と呼びます。不整脈の種類・程度により症状は様々ですが、心拍数の著しい減少や心拍の停止により心臓がポンプとしての機能を十分果たせなくなると息切れ、眩暈、失神などを生じることがあります。長時間心停止を生じると生命が危険な状態になります。

2. 心臓ペーシング療法とは
心臓ペーシング療法は刺激の生成または伝導路の障害により高度の徐脈を呈し、補助が必要な方を対象に行われます。ペーシングリード(電極)を心房または心室に入れ、刺激発生装置(パルスジェネレーター)から送った電気により心臓を刺激し、正常な場合とほぼ同じ速度で心臓を動かす治療法です。

3. ペースメーカー植え込み術について
ペースメーカー植え込み術は局所麻酔で行い、以下の手順で行います。
左(右)の鎖骨下に約5cmの皮膚切開を行い、周囲の皮下組織を剥離してポケット(ペースメーカーを収納する空間)を作ります。鎖骨下を走行している静脈を通してペーシングリードを心臓内に挿入します。検査を行って最適な位置を探し、リード先端(電極)を固定します。ジェネレーターをペーシングリードに接続した後、ポケットに挿入・固定します。最後に切開創を縫合して終了です。

術後に手術部位の血腫および感染、リードの位置移動などを予防する目的で植え込みを行った側の手を包帯で固定し、抗菌薬の投与を数日間行います。術後の経過が良好であれば約7日後に抜糸をします。

■両心室同期型ペースメーカー移植術
通常のペースメーカーでは心臓の右心系だけを刺激して徐脈の補助をしていますが、最近では心臓の左心系にも刺激装置を留置できるようになりました。冠静脈洞内に追加のリードを留置することで、心臓を右と左の両側から刺激することが可能であり、重症心不全に対する心臓再同期療法と呼ばれています。当科では植え込み手術の施設認定を受け、この治療にも積極的に取り組んでいます。

■植え込み型除細動器移植術
心室頻拍や心室細動などの致死的不整脈では、不整脈発作の出現時に心臓突然死の危険性が高いことが知られています。このような方の脈の状態を常に監視し、 危険な不整脈の出現時には自動的に電気ショックを加える機械が植え込み型除細動器(ICD)です。当科ではこの治療も認定施設となっており、たくさんの方の救命に役立てています。